サッカー(ヴェルディ)以外の日常を綴ります。
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Tue
2012.07.31
17:19
 
船を編む

玄武書房の社運をかけた新しい辞書『大渡海』は編集作業の最中。
莫大な時間と金がかかる一大事業は、
思うような成果が得られていない。
嘱託の荒木は辞書作りの才能がある若手社員を探していた。
そんな中で白羽の矢が立ったのは、
営業部では変人として扱われていた馬締光也。
個性的な面々の中で辞書の世界に埋没していく馬締。
度重なる困難の中、
果たして『大渡海』は完成するのか。
日本語の奥深さを教えてくれる三浦しをんの小説。
2012年本屋大賞受賞作。


少し前に話題となった作品をようやく読了。
人気作家である三浦しをんらしい読みやすい作品だ。
馬締の下宿先でのほんわかした描写は、
著者の良さが出ているように思う。
主人公の馬締光也は、
文字に対する執念以外は、
何をしても冴えない優男。
髪はボサボサだしいい歳こいて童貞だし。
周りの評価はズバリ変人だ。
しかし文字に対する着眼点は秀逸。
それで周りが見えなくなってしまうだけで、
本当は半野良猫トラさんと、
怪しいインスタント「ヌッポロ一番」を愛するピュアな青年である。
そんな主人公を取り巻く登場人物も個性的だ。
頑固だけど辞書に対する情熱は人一番の荒木。
地味な辞書編集部では異質のチャラさを誇る西岡。
物静かな佐々木さん。
そして辞書の監修者である松本先生。
とりまく仲間はそれぞれ文字を愛し、
そして各々が悩みを抱えながらも本気で辞書の完成の望むメンバーだ。
個人的にはチャラい荒木の存在がお気に入り。
見た目はモサいけれどえも才能豊かな馬締の存在に、
羨望と嫉妬を織り交ぜた感情を抱いている。
普段は明るく人一番気の効く男。
そんな人間の奥に隠された小さな棘が、
実に人間臭く共感を覚える。
西岡が吐露したこんな一文を紹介しよう。

馬締や荒木や松本先生のようなひよは、
西岡のまわりにはこれまでいなかった。
学生時代の友人たちは、
なにかにのめりこむのを、
むしろ敬遠する傾向があった。
西岡も、
がっつく姿勢を見せるのは恰好悪いと思っている。
(中略)
なぜそこまで打ち込めるのか、
謎としか言えない。
見苦しいとさえ思うときがある。
だけどももし仮に、
まじめにとっての辞書にあたるようなものがあったら。
西岡はつい、
そう夢想してしまうのだった。
きっと、
今とはまったく異なる形の世界が目に映るのだろう。
胸苦しいほどの輝きを帯びた世界が。


これ何だか分かるなと思った。
確かに全力で脇目も振らず頑張る姿が、
なんだか青春臭くて恰好悪く思うときはある。
でも実は、
そうやって頑張る人達の事を心のどこかで羨ましがっている。
誰しもが思う節のある事であろう。
だからこそ共感できるかもしれない。


共感出来るといえば、
ストーリーの後半から出てくる岸辺という辞書編集部に異動になった岸辺という若いOL。
「きみは一人で先に進められる人だよ。」と、
男に捨てられたちょっと寂しい今時のOLである。
雑誌の花形部署で仕事をこなし、
周りの評価をある程度得てそれなりにプライドを持つ。
彼女は限られた空間の中で、
ひとつの存在感を持ち生きている。
そういった空気感が男に一人で先を進められると言わせたのだろう。
しかし彼女とて一旦枠から離れてしまうと、
普通の女性。
男に一人で大丈夫だなんて言われる筋合いはないのだ。
慣れない辞書編集部に来て、
岸辺は自らの無知や未熟さを知る。
しかしその一方で、
自分の本当の長所が何かも気づくのである。
慣れて居心地の良い枠から抜け出して、
社会人として女性として成長していく姿は、
個人的に意味深く読ませていただいた。
僕らぐらいの世代の人間にとっては、
思うことがあるのである。



馬締のキャラは一見ダメ男に見えた、
才能豊かなモテキャラ設定という感じか。
実に主人公らしい人間である。
下宿先で知り合った大家のタケおばあさんの孫・香具矢との恋愛話は、
おいおいそんなベタなという展開だ。
正直浅い感じに思えたし、
必要なのかも疑問であった。
個人的にはもっと文字に対する丁寧な描写が欲しかった。
この話の背景は書かれてはいないが字引離れへの危惧の気持ちがあるのだと思う。
様々なツールで文字は知れべられるし活用できる。
電子辞書はもちろんパソコンやスマートフォンなどの台頭により、
アナログの字引より便利に検索できるようになった。
ともすれば字引は時代遅れの不要の産物となりかねない。
僕の様な旧世代の人間にとっては、
これはとても寂しい事である。
字引は現代では不便かもしれないが、
書物として色々な魅力ある。
手で触る質感の他にも連動したストーリー性も楽しい。
本作でも少しだけ触れられているが、
対義語を比較なんかするだけでも、
とても興味深いのが字引の特長と言えよう。
時代に取り残される中、
あえてアナログの辞書制作に挑む人々の物語な故に、
ベタな恋愛事情は失くしてでも、
もっと辞書に対する著者の情熱を注ぎ込んで欲しかった。
まあ読みやすいし全体を通して言えば飽きのこない秀作なのであるが。
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