サッカー(ヴェルディ)以外の日常を綴ります。
http://cycun1944.blog.fc2.com/
--
--.--.--
--:--
 
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
 
編集[管理者用] このページのトップへ

 

Mon
2012.07.16
15:18
 
海炭市叙景

北海道の地方都市を舞台に綴られる短編連作。
海と山に囲まれた架空の都市「海炭市」。
そこに暮らす人々の様々な人間模様を丁寧書き記した作品。
多くの仕事を通して、
不器用にも行き抜こうとする人々の姿を鮮明に映し出している。
若くして命を自ら落とした佐藤泰志の遺作にして傑作。
すでに映画化もされた話題作だ。


まず最初に驚いた事。
本作が遺作とは知っていたが、
実はまだ未完の作品であったのだ。
つまり生きていれば続きがあったという事。
構想ではまだ半分ぐらいしか書き上げていなかったらしい。
心持半ばで終ってしまった作品。
これをどう解釈するかは非常に難しい様にも思う。
読んでみれば分かるが、
確かに読後感は通常とそれとは異なり、
大きな含みを感じるであろう。
一見すると関わりのない短編が、
最終的に結びつくのであればその過程を読みたかった。
もちろんそれを裏切るだけの偉大な作家でもあるのだけれど。
とにかく作者しかしりえない物語の結末を読めなかったのは、
やはりとても残念だ。
しかしそれでも作品は非常に生々しく、
佐藤泰志が生きた証が確かに詰っている。
彼が描きたかった海炭市。
おそらくは彼の故郷である函館。
その風景は決して色褪せてはいない。


あとがきにも書かれている事であるが、
本作では故郷と仕事。
この2つの要素が色濃い。
孫が出産間近の市電運転手、
空港で働く都市に憧れを持つ少女、
故郷に舞い戻った妻子に、
父親の家業を継いだ燃料店の男。
バブル(作品の中の時代背景)とは無縁の人々が、
北海道の地方都市という活況ない場所で懸命に生きる。
まるで現代の地方過疎化を予見するような、
生きる事の厳しさを感じざるを得ない。
炭鉱業は衰退し観光でしか発展を見い出せなくなってしまった都市。
そんな寂れゆく街の風景をドライに書く事で、
佐藤自身も故郷の先々を憂いでたのかもしれない。
それでも仕事に就き、
必死に行く抜く事が人の生きる道だと説いているようだ。


僕は仕事に関してそこまでの想いはないのだが、
生きて行く過程で避けては通れない事なんだとは強く思った。
しかしそういった事だけでなく、
ただ単純に佐藤泰志という作家の放つ独特の優しさが僕は好きである。
時に冷たく表現される人間関係。
荘厳な自然と汚い人間の欲望。
そしてそれをも包み込む人の温もりや柔らかさ。
僕は死後になってから彼の作品と出会ったタイプ。
死んだ人間と分かりながら読んでいるからこそ、
彼のそこはかとない優しい文章に惹かれてしまうのかもしれない。
未完の傑作。
冷たい海炭市の風景は、
著者の力によって温かく生まれ変わった。
スポンサーサイト
 
Category * BOOK
Trackback(0) Comment(0) 編集[管理者用] このページのトップへ

 

 
Comment

 

 Secret?

 

 

 

 
Copyright © 2017 新きっと鴨はシャイ, all rights reserved.
 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。