サッカー(ヴェルディ)以外の日常を綴ります。
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Mon
2012.06.11
16:59
 
そこのみにて光輝く


夏の函館。
ニートの達夫は、
パチンコ屋で間抜けなチンピラ拓児と出会う。
きっかけはライターは貸してあげた事。
ただそれだけだ。
拓児は両親と姉の4人で、
今なお廃墟のようなバラックに住んでいた。
痴呆で廃人と化した父親は皮肉にも性欲だけを残し、
母親はその欲望を受け入れる。
姉は体を売ることも厭わないホステスとして一家を経済面で支え、
当の拓児は山から勝手に抜いてきた高山植物を売っている。
もちろん金になんてなりやしない。
そんな底辺の家族と出会い、
達夫は次第にそこへと導かれていく。
そこへと導いたのは拓児の姉の千夏。
彼女と泳ぎ体を交えた日から、
達夫の苦しくも美しい時が流れ出す。
若くして命を落とした作家・佐藤康志の幻の名作。


佐藤康志は、
41歳の若さで生涯を自ら閉じた孤高の作家である。
5度の芥川賞候補になりながら一度も受賞する事がなかったのでも有名だ。
個人的に気だるい夏の青春劇を書かせたら右に出る人はいないと思う。
特に泳ぐというセンテンスと青春群像を重ね合わせた手法は、
佐藤作品でよく見られる。
本書もそうだ。
プールと海が実に印象的に描かれている。
個人的には特に業績不振の造船所に嫌気が差し退社した達夫が、
拓児の姉である千夏に初めて出会ったシーンが記憶に残ったので紹介したい。
達夫が偶然出会った拓児の家についていく場面から物語は始まる。
海鳴りが酷い函館の町。
開発から取り残されたバラックに住む拓児の姉千夏と、
その時初めて出会った。
年齢を感じさせる体型と、
それ以上に疲労を漂わせる女の匂い。
彼女の作るチャーハンは、
とにかく官能的だ。
すると、
なぜか千夏は帰る達夫を追ってきた。
そして2人で今から禁止区域の海で泳ごうと約束するのである。
その日は結局気まぐれな達夫が、
千夏を置いて勝手に帰ってしまうのだが、
その時から千夏の事を達夫は忘れられなくなってしまう。
我慢できずに拓児のバラックに海パン一枚で行ってしまうのは、
ちょっと滑稽でもありまた達夫の変化を如実に表している。
そして早くも2人は海辺で結ばれてるのであるが、
海を背に行われて2人の行為は、
とても情熱的であり感傷的であり、
なにより儚さを孕んでいる。
時代に取り残され無気力な若者の、
ぶつけどころのない欲望が重なりあった様にも思えた。


達夫は経営不振の仕事場に嫌気が差し退社。
定職もつかずにブラブラする完璧なニートだ。
おおよそ将来の夢を持つ事など忘れていまっていた。
一方の千夏は、
体を売ることもある底辺のホステス。
彼女も自分自身の夢やプライドは諦め、
まさに身を削って生活してきたのだ。
そんな夢を見失った2人は、
偶然にも出会い必然的に惹かれあい、
そして隠されていた情熱を再び照らし始めるのである。
お互いが結びつく事で初めて光り輝く。
タイトルの意味は、
きっとそんな所だろう。


いまさらではあるが本作は2部構成になっている。
1部は達夫と千夏が出会う話だ。
そして2部は、
2人が結婚してからの話である。
2部では奔放だった2人が、
いきなり平穏な生活の中に生きている。
子供を設け達夫も普通に仕事をこなす。
諦めていたはずの日常を手にしているのだ。
そんな中でひとり変わらない人間がいる。
千夏の弟拓児だ。
彼を一言でいうなら飾らない馬鹿。
山で採取した高山植物を売るなんていう馬鹿げた商売を馬鹿正直にしているのだ。
しかも売るより育てる方が好きなんていう柄でもなくカワイイ面もある。
祭りが好きでテキヤみたいな格好の荒くれモノ、
でも実は家族思いだし友人思いだし超良い奴。
姪っ子へ幼児向けの雑誌をプレゼントし破顔する。
その憎めなさは半端ない。
物語を通して拓児の存在は非常に大きなウエイトを占めているのだが、
2部では特にその色合いが大きくなった様に思う。
彼はある男を達夫に紹介する。
サウナで出会った中古車を売ってくれるというサングラスの男である。
その男が、
また平穏だった日常に新たな情熱をもたらして行くのだ。
新たな希望といっても良い。
それが何かは読んで知ってくれれば良い。
いずれにせよ達夫と千夏、
少しだけ距離をおいて拓児の3人が織り成す物語は、
北海道の地を舞台に実に美しく書かれている。
佐藤泰志らしい作品だった。
ますますファンになってしまった。
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