サッカー(ヴェルディ)以外の日常を綴ります。
http://cycun1944.blog.fc2.com/
--
--.--.--
--:--
 
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
 
編集[管理者用] このページのトップへ

 

Thu
2012.06.07
15:11
 
青い壷


亡き父親の後を継いで陶芸家となった省造。
彼が偶然にも焼き上げた、
ひとつの美しい青磁。
自分でも驚く程の美しさに感嘆する。
しかし青磁を目敏く見つけた道具屋は、
古色をつけろと言う。
たった今焼き上げたばかりの美しい青磁に細工をするという、
容赦ない要望に狼狽する省造。
そんな省造を見兼ねた妻は、
独断で青磁を百貨店に売り渡してしまったのだ。
青磁を購入したのは退職したばかりの初老の夫婦。
夫の勤めていた会社の上司への贈り物だ。
青磁は老夫婦から上司の妻へ、
上司の妻からその友人へ、
様々な人間の手へと渡っていく。
青磁を通して人間模様が浮き彫りになる、
美しくも残酷な物語。
故有吉佐和子の名作。


この本で書かれているのは、
主に人間の卑しい部分である。
陶芸家の美に対する葛藤から物語はスタートし、
引退した男の悲しき現実、
老いと介護の難しさ見栄や嫉妬など、
私達の周りにあるありふれた卑しさが満載であるのだ。
それでいて苦痛でないのが不思議である。
あたかも青磁を通して、
様々な人々の生き様を覗いている様である。
人生なんてものは美しい事ばかりでなく、
むしろ泥臭い場面ばかりだ。
そんな生き方を実直に書いているからこそ、
人間らしさが醸し出され嫌味に感じないのかもしれない。
有吉佐和子は実にそういった人間ドラマを書くのが巧い。
特別な派手さはないのだが、
グイグイと引き込まれる魅力がある。


物語は13話の連続短編集だ。
時代背景はちょうど高度成長期。
戦後を脱却し、
国民全体が先進国としての自覚を持ち始めた時代だ。
第7話と第8話をご紹介しよう。
自宅に青磁を見つけた姑の春恵。
それを見て彼女は戦前戦中の亡き夫との想いでに浸る。
豪華絢爛で贅沢の極みの生活であった日々、
そんな幸せな日々を戦争が奪っていった。
国民誰しもが貧困に窮する中、
姑とその夫は、
贅沢する心だけは失わなかった。
貧しい食材を駆使してフレンチ料理を食べるふりをしたのである。
話の中に出てくるホロホロ鳥という珍しい鳥の料理は、
その象徴と言えよう。
ちょっと鼻につくインテリで高飛車な老婆の言葉であったが、
やはり嫌味は無く、
むしろ愚直にも生き抜く人間のたくましさを知るのであった。

「人間には贅沢というものが必要なんだ。
(中略)味覚というのは、
教養だからね。」


春恵の夫が語った上の言葉が印象的である。
戦時中にでも人としての欲を失わない大切さ。
フレンチがどうこうでなく、
単純に心まで貧しくなってはならないという意志が伝わってきた。
ちなみにフレンチの晩餐ごっこをした日、
隠しておいた舶来の高級食器に紛れて、
美しい青磁が飾られていたらしい。
老婆は今目の前にある青磁を見て、
戦火の日に起こった夫とのロマンチックな夜を思い出したのだ。


さて、
そんな姑の話を義理の娘である厚子はどういった気持ちで聞いていたのだろう。
直接に書かれている訳ではないが、
嫉妬という気持ちがきっとあったはずだ。
医者の妻という比較的に恵まれた環境ながらにして、
やはり戦後の貧しさが染み付いてしまった身。
姑は本心からなのか、
贅沢を知らない厚子を不憫だと馬鹿にする。
欲を知らない世代の厚子は、
ただ話を聞く役ばかりであった。
しかしながら時代が移る。
姑も死去した今、
厚子と夫は老婆が口にした贅沢を手にいれようとするのだ。
戦後を切り抜け、
贅沢が出来るまでに成長した日本。
「人間には贅沢というものが必要なんだ。」
という言葉を実践しに厚子は夫に誘われディナーへと出向く。
芝の増上寺前にあるフランス料理店。
そこで2人は、
本物のホロホロ鳥を食すのである。
日本人が欲を取り戻す姿にも見えたエピソード。
厚子と夫は帰り際に、
こんな会話をする。

外へ出ると、
前に木立ちの繁みがあった。
食後の散歩のように、
しばらく二人で歩きまわった。
「ねえ、
あなた」
「うん」
「三年に一度くらい、
こういうことをしてくださらない。」
夫はしばらく茫然としていたようであった。
それから苦笑して言った。
「君は欲のない女だな。
僕は、
一年に一度はこういうことをしようかと思っていたところだよ」
「でも私、
お値段を見てしまったんですもの。
そんなこと言えないわ、
とても」
「おふくろに笑われるよ、
貧乏性だって」
「さんざん言われていたんですからね、
平気だわ」


この会話には飾らない欲と、
日本人の慎ましさが見事に表現されている。
僕はこの章が一番好きだ。
最後夫婦がなぜ青磁を手放すかは、
是非読んで知って欲しい。
ちなみにであるが、
夫婦が訪れた芝のフレンチ。
恐らく実在する。
時代背景や佇まいを考えると、
恐らくクレッセントというお店。
フレンチの名店である。
ホロホロ鳥があるかは問い合わせてみようか。
いずれにせよ、
とても行ってみたくなった。


THE CRESCENT
http://www.restaurantcrescent.com/#/top/


13話のエピソードは、
その他にも今も色あせない人間ドラマが書かれている。
ドライな結婚観には思わず笑ってしまうし、
老人達の同窓会も滑稽だ。
欲を題材にした7話と8話も同じ。
自然体の人間感情が描かれているから面白いのだ。
ただひとつ青磁だけは美しく描かれている。
その物の価値は様々だけれども、
美しさは変わらない。
青い壷だけは美しいままなのだ。
スポンサーサイト
 
Category * BOOK
Trackback(0) Comment(0) 編集[管理者用] このページのトップへ

 

 
Comment

 

 Secret?

 

 

 

 
Copyright © 2017 新きっと鴨はシャイ, all rights reserved.
 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。