サッカー(ヴェルディ)以外の日常を綴ります。
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Wed
2012.04.25
09:28
 
会えなかった人

旗笙子。
約束の日に恋人の真崎を待つ。
自宅の窓からは取り取りの色をした火花が爆ぜる。
真崎のために作られた野菜達は、
食されるべき主を失い、
ただそこにいる。
真崎は、
あの電話に、
園井の背中に惑わされている。
近くで拾い持ってきたトチの実は、
ブラックコーヒーの様に黒い。
なぜ
笙子は会えなかったのか。
なぜ
真崎は会わなかったのか。
ひとりの男とふたりの女が紡ぐ、
儚く残酷で美しい人間模様。
第27回太宰治賞受賞作。
三鷹の風景をファンシーに書いた短編、
『ミタカさんとの散歩』も収録。


まず非常に読みにくい小説だ。
純文学的な文体はさることながら、
まるで骨抜きにされたストーリーに、
途惑う人も多いだろう。
こればかりは相性もある。
本の評価以前に、
文章の在り方を受け入れる事が出来なくとも、
納得してしまうような作品だ。


物語のベースは、
旗笙子というヒロインが、
恋人である真崎に、
なぜ会えなかったという事に向けられている。
そして会えなかったというのは、
花火大会を笙子の自宅で一緒に観る事が叶わなかったのを指す。
花火がよく拝める部屋で、
笙子の作った家庭菜園の野菜を食す約束をしたのだが、
その約束を真崎が破ってしまう。
そう考えると、
なんだかありがちなシチュエーションに感じてくるかもしれない。
にも関わらず不自然な雰囲気は、
たぶん読者全員が感ずるだろう。
それこそ本作の個性である。


まず不思議なのは、
恋人なはずの笙子と真崎の会話が、
全編を通して敬語で語られている事だ。
長い年月を共にし、
なおかつ進展を窺わせる関係ながら、
まるで仕事先の相手に話すような口ぶりなのは、
真に不自然である。
さらには笙子の友人である園井なる人物。
背中に火傷の傷を持つ女性は、
怪しげに真崎の心を刺激する。
彼女は誰なのか。
まさに謎の中で、
徐々に存在感を増していくのが不気味だった。
そういった会話の不自然さや、
新たな女性像という不安が、
物語を埋め尽くしている様に感じた。
物語の中盤になると、
笙子なトチの実に魅力される。
真崎は、
祭の日に出会った(実際は遭遇していない)、
謎の客に怯える。
そして共通のキーワードとして、
ある事が浮かび上がってくるのだ。


そのキーワードが意味するのは何であるか。
自分なりの解釈は、
存在の不安定性、
あるいは変動性である。
存在と言うのは、
字面が表している様に、
そこに在るのが前提だ。
恋人や家族。
日々当たり前に過ごす中で、
当たり前にいる存在だろう。
しかしそういう存在だからこそ、
心も体も傍にいるのが当然すぎて、
その人を失うきっかけを見落としてはいないだろうか?
そんな見えない不安を、
小説は書いている様に思う。
人間関係の歪みっていうのかな。
それとも恋人通しのすれ違いか。
気づいた時には、
もう遅かったみたいな経験は、
誰しもがお持ちだろう。
そういった心の変化こそ、
実は人間らしいのだと感じた。


小説は、
どこか鼻につくぐらいに純文学の色合いが強い。
言葉を追うだけでは足りず、
読んで考えるという作業が必要だ。
真崎が口走った言葉に、
『何でもいいもの-しかし、そうでなくてはならないもの』
という一文がある。
読者によって捉え方は異なるだろう。
ただ本を読みながら、
それが何かを夢想していたのなら、
きっとこの小説の良さを噛み締めているに違いない。
ちなみにであるが真崎は園井に、
恋人である笙子について以下の様に表現した。
『のんびりと、ゆっくりと、そして、きままに。何とも離れられないといったかのように、ですね。どうもその周りをぐるぐると回り続けているのですよ。眺めながら、眺めさせられながら、たぶん眺められながら』
併せてどう感じるだろう?
ちなみに園井は、
悠長と笑った。
読んで考えていくうちに、
もしかしたら小説の色合いが見えてくるかもしれない。
そうやって読み終えた人だけが、
ふと装丁を眺めてニヤリとさせられるだろう。
う~ん。
なんだか罪な小説だ。
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